ケアンズ皆既日食 



ケアンズ皆既日食への意気込み

 
2009年7月22日昼過ぎ、私は失意に明け暮れていた。「7月下旬の奄美は台風以外は間違いなく晴れる、なのになぜ梅雨前線が皆既日食当日を狙って南下してきたのだ・・・」と、かなり落ち込んでいた。同行していた友人から「暗くなる経験だけでも貴重だった」と慰めてくれたが、私はそれでも納得できずその時、海外遠征を決意した。次の皆既日食は2010年南太平洋皆既日食があった。2009年の後半頃には南太平洋皆既日食のツアーが出始めたが、どれも50万円以上のツアー価格を目の前にすると、確実に皆既日食が見られる気象条件でもないため、貧乏サラリーマンの私は躊躇してしまった。次の皆既日食は・・・?2012年ケアンズ皆既日食。ケアンズなら日本から直行便もあり、観光地としても有名。短期間で遠征も可能だろうし、これに照準が向けられた。

ツアー検討
 ケアンズの11月の気候は雨期の始まりと一般的に言われ、特に海岸線は湿った空気がちょうど太陽が昇り始める東側のグラフトン岬の山並みの影響で低空の雲が邪魔しやすいという情報があり、私は内陸にマリーバ方面に向かうか、標高の高いアマルーに向かうツアーを検討した。ちなみにツアー参加の理由は海外旅行に慣れていないからである。参加は私ひとりなので、皆既日食に集中するためにもツアー参加が便利だ。関西在住の者としては、関空発か中部発のツアーに絞られる。私がざっと見ていくと意外と、これらの空港発のツアーは少なかった。
 ちなみに皆既日食観測ツアーはどちらかというと、特殊な分野の海外旅行ツアーになると思う。皆既日食観測ツアーに強い旅行会社というのは大手だったらどこでも良いのでは?とも言えず、私の中での勝手なイメージでは、近畿日本ツーリスト、阪急交通社、日通旅行、国際航空旅行サービス、ジャパトラ、PTSなどがあった。出来れば、これらの旅行会社から選びたかった。
 しばらく様子を見ていると星ナビ協賛の日通旅行の皆既日食ツアーを目にした。アマルーで観測する4日間コースと7日間コース(こちらはオプションでアマルーでの観測)が設定されていたが、サラリーマンとしては出来るだけ休み期間が短いツアーがありがたく、4日間コースにさっそく申し込んだ。申し込み開始からすぐに申し込んだので仮予約OKとなった。仮予約とは電話で承っただけと言う意味で、指定された期間内に申込金と申込用紙を送付する必要がある。私はすぐに申込書に記入し返送し、申込金も振り込んだ。
 日通旅行に申し込んでからしばらくすると、JTB旅物語からケアンズ皆既日食ツアー(アマルー観測)を見つけた。こちらは観光付きで、万が一皆既日食が観測できなかった場合でも観光は楽しめる。こちらのツアーも気になったので申し込んでしまった。しかしこのツアーは宿泊場所がコンドミニアムで自炊前提だったので、食材はスーパーまで買いに行かなくてはならない。しかしコンドミニアムがスーパーがある市街地からかなり離れた場所にあり、一々買いに行くのが面倒ではないかと感じた。また、これは私の勝手な想像なので間違っているかもしれないが、JTB旅物語は高齢者の参加が多いとも聞いた。実際ツアーを申し込んだ時、年齢を伝えたら、担当者の少し微妙な反応もあったのでそれが私の中で引っかかっていた。今回初めてツアーというものに参加するし、皆既日食の撮影を目的としている私が重装備でツアーに参加した時、まわりから浮かないかも心配だった。そしてJTB旅物語の担当者に皆既日食ツアーについて色々質問をしたが、すぐに返答が返ってこなかったり、分からないという返事も多かったので、都度的確に答えてくれた日通旅行のツアーに参加する事を10月上旬に決定し、JTB旅物語のツアーはキャンセルした。

金環日食撮影の失敗
 2012年は金環日食が5月にあった。私はこの日食をケアンズ皆既日食の前哨戦として捉え、撮影に挑んだ。しかし撮影は失敗したと言ってよい。望遠鏡によるリングの拡大撮影を試みる予定であったが、赤道儀とカメラ等の機材が干渉する事に気がついたのが、金環日食1時間前。どうにか干渉しないように組み立てられないか焦っているうちに、第2接触が迫り、スチールカメラでの撮影を諦めビデオカメラに切り替えた苦い教訓があった。おまけに赤道儀の電源はコンセントがうまく挿さっていなかった事もあり、モーターが駆動していなかった。ビデオカメラからやたら太陽が出て行く現象があったのにそれに気が付かなかったのがまずかった。なので映像も後でとても見られたものではない。この金環日食が終わった後、私は反省点を洗い出した。

・事前の練習が疎かであった
・日食前に早めに現場に到着していなかった。
・機材をばらし過ぎた。

 大まかにはこれら3点が上げられた。1点目は事前のリハを疎かにしていたのだ。通常、日食当日の太陽高度を意識したリハをしなくてはならないが、金環日食が朝7時半だった事もあり、実際にこの時間でリハを行うことが無かった。昼過ぎに戸外でリハをする事はあったが、太陽は全然違う位置にあるので、赤道儀に搭載した機材は当然金環日食当日とは違う姿勢であった。なので金環日食時に機材が干渉する事に気がつくことが出来なかった。
 今回、この失敗があったのでケアンズ皆既日食の際は同じミスは許されない。私はケアンズ皆既日食の皆既時の太陽の方角と高度を確認し、この太陽位置で機材が干渉しない姿勢の確認を徹底した。特に南半球は北半球と太陽の動き方が異なるので(赤道儀のモーターも南天モードというのがある)、何度も何度も赤道儀の姿勢に注意した。
 次に、2点目と3点目は関連性があるのでまとめて挙げるが、現場に到着したのが第1接触まで1時間を切っていた。そして撮影機材を私はどういう分けか、かなりばらばらにして現場に持ち込んでいた。当然ばらばらになっている機材は組み立て直さなければならないし、時間が迫っていると手元が狂う。そうすると余計に時間が焦って、機材が干渉するともう頭はパニックになってしまった。

 これらの失敗をケアンズ皆既日食に活かす事が求められるのである。

皆既日食撮影の計画
 皆既日食を撮影する際は極力カメラはいじらない方が良い、という参考書や記事をよく目にする。皆既日食を目の前にするとベテランでも平然としていられないからであるとの事。私はそういった経験者の意見を今回は参考にさせてもらった。だが、撮影はしたい。以下の撮影を実際に計画した。

・望遠鏡による拡大撮影(スチールカメラ)
・風景撮影(スチールカメラ&ビデオカメラ)
・全天撮影(ビデオカメラ)
・自分撮影(コンパクトスチールカメラ)

 カメラは計5台である。皆既日食の諸先輩から見たら初心者が阿呆かと思われるであろう。しかし実際に皆既中に操作するすのは1点目の拡大撮影のみである。あとのカメラは皆既が始まる前から撮影を始め、そのまま撮りっぱなしにすると言う計画であった。計画が立てられたら、次はリハに移る。

 リハは実際と近い状況でやらなければ意味が無い。ケアンズ皆既日食は明け方から第1接触が始まるので夜中にカメラのセッティングをしなければならない。また、リハをする時点で未だ日通旅行から観測地アマルーに何時ごろに到着するかも未だ決まらないという返事だったので出来るだけ、機材の組立は早くできる事、そして夜中の暗闇でも組立が出来るよう、実際に夜にヘッドライトを付けて組立練習を行った。すると組立に1時間近くかかる事が分かり、その後も練習をして30分ぐらいまで短縮する事ができた。機材も最小限にばらす事にし、現場で作業をする事を極力少なくなるようにした。

 ここまでは機材の組立リハであるが、次は皆既日食撮影のリハである。ケアンズ皆既日食は約2分間の現象だ。2分間の間に露出はどれぐらいか?構図は?等と考える暇は無い。私が利用したのはエクリプスナビゲータVer.2.5である。エクリプスナビゲータは日食に特化したシミュレーションソフトで、日食の進行がパソコン上で再生されるのはもちろん、撮影画角を枠で示してくれるので構図に対して太陽がどの位置、どのくらいの大きさかというのが一目瞭然である。特に皆既日食の風景撮影には必需品と言ってよい。さすがに魚眼などはまだ画角が対応していないが、ビデオカメラやミラーレス、APS-C、フルサイズなどカメラの機種によって選択できる。割と古い機種でもOK。

 リハを実際やってみると、撮りっぱなしのカメラのスイッチを入れ忘れない限り、大丈夫だと言う実感があった。あとは赤道儀の極軸合わせが南半球なのでどの程度混乱しないかだけが気になった。方位磁石も気をつけたほうがよいという記事も見られた。

 皆既日食撮影の準備に当たっては、ICレコーダを一つ用意した。目的はタイムスケジュールと時報を吹き込んで、作業をより確実にするためである。安いICレコーダで十分だ。

 機材準備
 撮影撮影機材は、以下の通り。

☆カメラ
@NIKON D300 + BORG 77EDU 510mm F7.7    :拡大撮影(スチールカメラ)
ANIKON D40 + AF-S DX NIKKOR 18-200mm    :風景撮影(スチールカメラ)
BNIKON J1 + 1 NIKKOR 18.5mm            :風景撮影(ビデオカメラ)
CSONY CX-180 + NIKON FC-E9            :全天撮影(ビデオカメラ)
DNIKON P5100                       :自分撮影(コンパクトスチールカメラ)

☆搭載機材
・GP2ガイドパック システマティックアーム  趣味人オリジナル   @搭載
・Velbon Ultra LUXi L +雲台クリップ  AB搭載
・ゴリラポッド SLR-ZOOM   C搭載
Dはスーツケースに置く

撮影機材以外は、以下の通り。考え方によっては撮影機材と言えるだろうが、参考になればと思い紹介する。
・予備バッテリー
・予備メモリーカード
・ケーブルレリーズ
・方位磁石
・傾斜計
・ICレコーダ
・フィルターアダプター
・撮影用減光フィルター(2種類持った方が良い、薄曇対策のため濃度は2パターンあれば良い)
・ヘッドライト (夜間待機には必需品)
・双眼鏡
・日食メガネ
・六角レンチ(組立時に必要であれば)
・レジャーシート
・水の入ったペットボトル(バランスウェイト用に)
・タイムスケジュールが書かれたノート
・セロファンテープ(ピントリング固定など)
・小さいデジタル時計(アナログ時計だと分まで読み取るのが面倒、デジタルだと一目瞭然)
・ピンホールカメラと白紙(あれば)

 今回、私が持ち込んだ機材はおおよそ上の通りである。海外遠征では重量が気になる。特に赤道儀のバランスウェイトを持っていくのは重量が嵩むので、現地でペットボトルを購入してそれを代用する方が良い。今回の遠征では衣類など含めると20kg近くになった。利用する航空機によっては20kg制限となる事が多く、最近は超過すると別途超過料金を取られるなど厳しいと聞く。預け荷物はほぼ確実に計量されると思ってよい。逆に手荷物はあまり重量を気にしなくても良かった。航空会社の手荷物重量制限を守るのは当然であるが、保安検査で一々計量する事は無かった事実だけ書いておく。外寸も一々、計測していなかった。(この記載が全ての航空会社で、とは限らないので、あくまで参考のこと。何かあっても自己責任で)。

 次ページ以降は、いよいよケアンズ皆既日食遠征編である。

 遠征編(出発〜アマルー到着まで)はこちら



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