我が家のAldrovanda vesicurosa(ムジナモ) の栽培方法

 

 〜はじめに〜
私がムジナモ栽培を本格的に始めたのは2003年の5月ごろからです。それ以前はちょっとだけ栽培をやってみた事もあったのですが栽培容器も簡易的なものしか用意せず、当然その時はムジナモが消滅したのは言うまでもありません。。
ムジナモ栽培は難しいという声を聞きます。私も2度ほど失敗しましたが、2004年から今日まで経年栽培が続けられるようになりました。まだまだベテラン諸氏から比べれば大したことはありませんが、これからムジナモを栽培される方にぜひ読んでいただければと思います。もちろんベテラン諸氏から、もっとこんな良い方法があるよ、というアドバイスもいただけると幸いです。



〜ムジナモ栽培までの準備〜
 ムジナモは入手してから栽培環境を整えるのではなく、入手する前に準備をすることを勧めます。そうすることで安定した環境で栽培をスタートできるからです。まず容器と抽水植物を準備します。容器は直径30cm、深さ20cm以上のものを用意します。種類としてはスイレン鉢、水甕、プランター(水が漏れないようにする)などです。容量が小さいと水質が安定しません。土を入れた後、抽水植物を植え込みます。使用する用土は荒木田土を使用します。他には赤玉土なども使用できますが、あくまで肥料気が無いものを使用します。田んぼの土もかまわないのですが、農薬が残留している恐れもありますので気をつけます。その後水を入れ、水深10cmは確保します。しばらく水の濁りが取れるまで待ちます。その間、浮いてきたごみは除去します。

〜ムジナモの投入〜
 ムジナモは通信販売で入手できます。私の場合は緑の小包社、パスタイム安西さんから入手した経験があります。現在はパスタイム安西さんからの入手が安価で容易です。ムジナモは少量の水と一緒に到着しますが、その水と一緒に準備した栽培容器に投入します。

 


分岐増殖するムジナモ

 

〜その後の手入れ方法〜

日照
 
置き場所は戸外がベスト、ムジナモは日照が大好きです。夏は水温が上昇するのでムジナモ増殖に適しています。午後はやや日が陰る場所に置くと水温の異常上昇を防ぎます。当方では、昼過ぎから塀で日が陰ります。猛暑期は50%遮光でも良いと思います。

水やり
  水やりは毎日行うのが基本です。水質が不安定になりやすい春と、水が大量蒸発する夏は朝・夕2回、秋は1日1回、冬場で2、3日に1回(最低1週間に1回)を目安にします。水質が悪化するとムジナモは溶けるように消滅します。水はシャワー状にして水面にたたきつけるようにして散水します。これは散水の際に、水中により多くの空気を取り込めるので効果的です(実はこれが重要で、後に述べる好気性細菌の枯草菌と深い関わりがあります)。水面の泡がコロコロ転がるぐらい散水します。

温度
 水温はかなり高くてもムジナモは生育します。ただし目安として35℃を超えないようにします。40℃でも枯死しないが分岐は止まります。

水質
 ムジナモは水道水だけでも栽培出来ますが、有機酸、タンニン、フミン酸といった成分が水に含まれているとムジナモは更に旺盛な生育を示します。抽水植物を植え込んでいると、植物体から有機酸等が溶け出しますが、さらに溶出量を増やすために私は藁(ムジナモと同居させている抽水植物の枯れ葉が一番良い)と無調整の長繊維ピートモスを使用してます。藁はアオミドロの誘発材とも言われますが、それは藁に含まれる窒素分が多いからです。水鉢の貧栄養の水で栽培した藁を使用すれば藁の窒素分が少ないので長期間入れたままにしてもアオミドロが発生しにくくなります。水鉢の抽水植物を藁として使用する際は、刈り取った後、よく乾燥させて使用します。藁の投入量の目安として、直径40cm、深さ30cmのスイレン鉢の場合、藁を一掴み与えています。市販されている藁を入手するには、大型園芸店へ行くとマルチング材として販売しているのでそれを購入します。またウサギの餌として販売している事もあり、チェックしてください。ただし市販されている藁は肥培されているものが多いので注意します。その場合は長期間入れたままにせず2週間に1回程度、水鉢に投入した藁を交換すればアオミドロの発生は見られません。あとは藁の投入・交換を繰り返します。なお、藁の投入中は水を多めに散水します。散水が少ないと嫌気性細菌が繁殖し藁自体が腐りドブのような臭いを発しますので注意します。もちろんムジナモにとっても有害です。散水を繰り返し、分解し始めた藁は有機酸等の溶出の他に、藁に付着している好気性細菌の枯草菌(こそうきん)が増殖してアオミドロを抑制・分解してくれます。さらに無調整ピートモスはこちらも一掴み分を投入し、2週間に1度交換します。無調整ピートモスは分解時、水中に有機酸、タンニン、フミン酸が多く溶け出します。
 
 上記の水質調整法を行うと、ムジナモ水鉢は自然と水が透き通り、ほんのりビール色になってきます。たまにムジナモの栽培方法で水質を酸性に傾けるのが重要、と書かれているのを見かけますが、これは意味を取り違えており、上記の水質調整をすれば自然と酸性に傾くのであり、酸性に傾けるのが目的ではないということです。そのへんを勘違いしないようにしましょう。

 


水質が合えば多数分岐する

 

肥料
 与えません。水中の窒素分が多くなればアオミドロがすぐに発生・増殖します。

抽水・浮遊植物
 ムジナモ単体で栽培するよりも他に抽水植物を同居させるとなおいっそう生育がよくなります。私の場合、コガマ、マコモを同居させています。また水中の窒素・リンなどを強力に浄化するホテイアオイを夏の間のみ投入しています。ホテイアオイが旺盛に生育する場合は適宜トリミングしてやりムジナモの生育スペースを確保します。ホテイアオイは冬になると寒さの為枯死しますが、枯死する前に水鉢から取り出してやります。枯死したままにするとせっかく吸収した窒素・リン等が再び水に溶け込むからです。抽水植物は水鉢の南側に植え込むと、日中水面に陰が出来て、水温が上がり過ぎるのを防ぎます。

冬越し
 10月の終わりから11月にかけてムジナモは生育を停止して、冬芽を作ります。日本産でしたら問題なく戸外で冬越しできます。ただし冬場は水鉢の水全部が凍らないように気をつけます。水面だけ凍結するのは問題ないです。熱帯系はボツワナ産が冬芽を作り冬越しする事を確認しました。冬芽生成はかなり遅く、12月ごろでした。冬越し後、問題なく生育しております。他の熱帯産は不明です。

アオミドロ・ラン藻対策
 アオミドロは水質が悪化した時、すなわち水が富栄養化したときに発生しやすく水中に窒素・リンなどが過剰に含まれている事を意味します。昔や最近の図書でもアオミドロには焼きみょうばんを投与して枯死させる方法が示されていますが、水鉢内の水質バランスを崩すので最後の手段とした方がよいでしょう。通常、藁やピートモスを投入し多めに散水すると枯草菌等の効果によりアオミドロの増殖がほぼ止まりますし、上手くいけば後退します。もちろん、水鉢に生育している抽水植物や浮遊植物も旺盛に生育しなければ水中の富栄養状態は解消されないので、これらの生育にも注意します。アオミドロの増殖が止まれば、ブラシで絡め取り一網打尽にします。アオミドロの除去が追いつかないのは水質の富栄養が改善されていないからです。

アオミドロが発生しなくなれば、ムジナモ栽培は飛躍的に楽になりますが、時折ラン藻と呼ばれる濃い緑色をした糊状の物質がムジナモや抽水植物等に付着する事があります。これはバクテリアなので、水中の水質バランスが崩れている事を示します。ラン藻がムジナモに付着する次第にムジナモの芽は細り捕虫葉を付けなくなる事もあります。除去方法として、ラン藻はブラシではなく、スポイトで吸い取り除去します。ブラシでこすると水鉢内にラン藻が散らばり、ラン藻が一気に増殖するので注意します。ラン藻が発生した場合、無調整ピートモスを多めに投与すると、当方では次第にラン藻が消滅します。「アンチグリーン」という薬剤も効果があるようですが、試した事がありません。

 


水面いっぱいに広がるムジナモ

複数容器栽培の勧め
 ムジナモは上記の水質調整をしても上手く栽培出来ない事があります。微妙な水質バランスの崩れが原因となる場合がほとんどですが、栽培のコツを掴むまでは水質を立て直すのに少々手間取る事もあると思います。その対処方法として栽培容器を複数個持つことをお勧めします。同じ栽培方法をしていても、片方は水質良好、もう片方は悪化という事はよくあります。ムジナモの生育が悪くなってきたのを確認出来る場合は、生育が良好な水鉢に緊急的に移す事も可能ですし、万が一、片方のムジナモが絶えてしまった場合でも、バックアップとして機能します。我が家では2つのスイレン鉢でムジナモを栽培しています。


下記事項は必ずしも必要でない。

ジンコ増殖法
 
ミジンコをムジナモが捕獲・消化することはやはり生育面から見ても有効のようです。まず、ミジンコの増殖法ですが、昔ながらのミジンコ培養方法では鶏糞を少量水に溶かしたり、藁を水に投入して煮出す方法もあります。最近では、金魚の餌を水に溶かして日光にあててミジンコの餌作りをするようです。これで水は緑色の藻が発生して緑色を呈します。あとは、ミジンコを沼地から捕まえてきてミジンコ培養液に投入すれば自然増殖します。
 ミジンコをたまにムジナモ水鉢に投入すればムジナモは自然と捕獲します。ムジナモ水鉢にもともと藁を入れておけばミジンコは発生するのでこの手間は必要ないかもしれません。あくまでミジンコ投入は栄養補給と考えればよいでしょう。

 

 


手前の水鉢は抽水植物がコガマ、浮遊植物がホテイアオイ。

 

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参考文献 「特集:食虫植物の栽培(食虫植物研究会会誌)」
       「趣味の山野草2004年8月号(食虫植物の魅力)」
       「食虫植物情報誌第53号(初心者のためのムジナモ栽培講座)」

2010年9月5日 改訂