アメリカ皆既日食(2017.8.21)



皆既日食撮影


 アメリカ皆既日食の詳細な経過は、ブログの方に記載しているので、そちらを参考にして下さい。今回の皆既日食は夏休みシーズンという事もあり、昨年の各社ツアー販売開始と同時に完売するという、異例の皆既日食でしたが、大阪市立科学館友の会に急遽入会して、会員限定のツアーに参加しました。私が皆既日食で楽しみにしているのは皆既日食を体感する事、そして写真撮影です。ここでは私がアメリカ皆既日食を撮影するにあたって、準備してきた事について紹介したいと思います。

(1)撮影計画を立てる

 特に皆既日食は練習なしに現地で撮影をしようと思っても、作品作りになるような写真撮影は困難だと一般的に言われます。理由は皆既日食が数分間の非常に短い天体現象である事、皆既日食になると人間は興奮して冷静さを保てない事等が挙げられます。失敗したら、人によってはリベンジまで数年はかかります。わざわざ海外まで皆既日食遠征するので、絶対に撮影は成功させなければなりません。まあ、この「成功させなければならない」という気持ちが強すぎても失敗するので、気持ちのバランスが難しいのですが・・・。短時間でいかに冷静さを保って撮影するかは、事前の撮影練習が重要になります。そして撮影練習は撮影計画を基にするので、まずは撮影計画を立てなければなりません。

 私は当初、今回の撮影計画は次のように立てました。@望遠コロナ写真、A広角風景写真、B広角多重露光写真、C部分日食のスナップ写真、D広角風景動画、E全天動画、Fシャドウバンド動画、です。撮影項目が7個というのは一人としては明らかにキャパオーバーです。しかし、皆既日食はめったに観られないので、あれこれ記録に残したい!というのが人情です。まずは出来る出来ないは置いといて、自分の撮影したい項目を全てノートに書き出します。
 撮影項目を挙げれば次に撮影スケジュールを検討します。第1接触から第4接触の間にどういった操作をするのか、時間と操作の表にして無理が無いか確認します。@〜Fの撮影項目だとカメラの機能等を考慮して、皆既中に@とBは操作しなければなりませんでした。皆既中は出来るだけカメラ操作を1台にしたかったので、自分の撮影したい項目の優先順位からBの項目を外すことにしました。しかし、多重露光撮影は写真で日食の経過が分かるので、何とかAの写真で兼ねる事は出来ないか?と思い、皆既中の風景写真と日食の経過を1枚の写真で表現する事を目指しました。計画当初はAは横構図で撮ろうと思いましたが、日食の経過を入れようと思うと、横構図では苦しいので縦構図に変更しました。
 計画変更を経て、最終的には@、A、C、D、E、Fを皆既日食の記録として残す事としました。

(2)機材を選定する

 撮影対象が決まれば、次は機材選定です。日食ツアー手配時の手持ちのカメラはD800、D300、D40、J1でした。しかしD40は使用している携帯電話がスマホになってからiモードのアプリ「デジりも」が使えないので、自動撮影が出来ません。なので、今回の使用機材から外れました。望遠コロナ写真はのちに画像処理する事を想定して、出来るだけSN比が良いフルサイズセンサーを積んだD800としました。広角風景写真は三脚に据えて低感度で撮るならD300でも良いだろうという事で、機材としては古いですが、D300にしました。広角風景動画用として、J1を考えましたが、J1は2011年発売のカメラなので皆既中の高感度画質に不安があり、高感度の評判が高いJ5を新たに購入しました。J1は部分日食中のスナップ写真用としました。

  カメラ, レンズ, 三脚

 @望遠コロナ写真
  D800, BORG89ED, ビクセンGP2ガイドパック

 A広角風景写真
  D300, AF-S DX NIKKOR 18-55mm f/3.5-5.6G VR, スリック814EX

 C部分日食のスナップ写真
  J1, 1 NIKKOR VR 10-30mm f/3.5-5.6

 D広角風景動画
  J5, 1 NIKKOR VR 6.7-13mm f/3.5-5.6, スリック814EX

 E全天動画
  CX180, FC-E9, ベルボンウルトラミニ三脚

 Fシャドウバンド動画
  CX170, スリック814EX

 DFはクリップ雲台で814EXの脚に固定して撮影した。CX170は会社の同僚からレンタル。

(3)リハーサルを実施する

 撮影計画が決まったら、リハーサルを実施します。リハーサルは手持ちのエクリプスナビゲータ2で皆既日食前後をパソコンの画面で表示させ、太陽が刻々と欠けていく中で計画通りにカメラを操作出来るか等を確認します。最初のうちは全然操作が思うように出来なかったですが、何回か繰り返すと出来るようになります。なお、リハーサルは撮影計画表を基に行いました。計画表は操作の内容を時系列の表にします。スナップ写真写真は臨機応変に、という事で表に入れていません。実際は、部分日食中にご当地ピンホール撮影をする、という計画は立てていました。 下表は計画表の一部ですが、カメラ操作はトラブル等で余裕が無くなる事を考慮して、操作の間隔に余裕を持たせました。エクリプスナビゲータの時刻と計画表の時刻が同時刻になったら、計画表の操作をする、という感じでリハーサルを重ねていきますが、今回は諸事情で皆既日食に専念出来る状態ではなかったこともあり、練習は十分出来たとは言えない状況でした。







(4)タイマーを用意する

 撮影計画表を現場で活かすために、手持ちの機材では一つ足りないと思う事がありました。皆既日食までの時間管理です。手持ちの腕時計(アナログ)は現在時刻を把握するのは簡単ですが、皆既日食までの残り時間を秒単位に把握すのはすごく分かりにくいです。普段の冷静さがあれば、残り秒数の計算も簡単かも知れませんが、皆既直前の興奮状態ではおそらくパニックになると思います。なので、一目で残り時間が分かり、時間管理出来るようデジタルタイマーを購入しました。エーアンドデイのタイマーで、時間の文字が大きく分かりやすく、セットした時間になったらアラームを鳴らさず光って知らせる機能があったので、これにしました。アラーム無しとしたのは、周りの観測者のマイク録音の邪魔になるのではないかと思ったからです。皆既日食観測当日は90分前になったらセットして時間管理しました。




(5)撮影結果

 撮影結果は@望遠コロナ写真(成功!)、A広角風景写真(半分失敗) 、C部分日食のスナップ写真(成功!)、D広角風景動画(成功!)、E全天動画(成功!)、Fシャドウバンド動画(成功!ただし、シャドウバンドは今回出ていなかったので、あくまで動画撮影行為が成功した、という事)でした。事前の練習が不十分だった割にはほとんど成功したのは、計画、準備が本番を想定して出来ていたからではないかと思います。A広角風景写真が半分失敗したのは、バッテリー切れです。皆既中は撮影出来ていたので、半分失敗という事です。B広角多重露光撮影と兼ねての撮影だったので、撮影インターバルが30秒毎にしていた事もあり、途中でバッテリーが持ちませんでした。バッテリー持ちのリハーサルはしていませんでした・・・。また、部分日食中を撮影しましたが、レンズの特性である色収差がひどく表れてしまった事も反省点です。レンズの見極め、選定が出来ていませんでした。

今後の課題は機材の重量です。機材の重量の多くを占めるのが赤道儀のGP2ガイドパックです。重さが三脚部も含めると7キロ近くあります。そこで注目したのが国立天文台のアメリカ皆既日食の撮影機材です。カメラはD5でD800よりも重く、レンズも2キロ前後あります(BORG89EDも2.1キロ)。私の機材とほぼ変わりませんが、何と架台はビクセンのポラリエ(0.7キロ)を使用していました。おそらく公式オプションのステップアップキットを使用していると思いますが、それでも2キロ前後にです。三脚を入れると4キロ前後になると思いますが、海外遠征で3キロの違いは大きいです。すでに手持ちでアイベルのCD-1を持っていますが、拡張性ならポラリエが上です。次回遠征では架台をどうするか、じっくり検討したいと思います。



1/2000〜1秒の計12コマをコンポジット後、ローテ―ショナルグラディエント処理
左端の輝点はしし座のレグルス

撮影機材:D800, BORG89ED


連続経過撮影予定だったので、構図が中途半端

撮影機材:D300, AF-S DX NIKKOR 18-55mm f/3.5-5.6G VR




(6)ゴーストに泣く

今回、初めてまともにダイヤモンドリングを撮影したのですが、撮影終了後にモニターの再生画面を見て愕然としたのが以下の写真です。盛大にゴーストが出たのです。ダイヤモンドリングは非常に明るい光源があるので、一般的にゴーストが出やすいと言われています。レンズ構成数が少ない天体望遠鏡はゴーストが出にくいと言われており、テレコンを咬ませていないのにこんなにゴーストが出ては作品としては致命的です・・・。メーカーに問い合わせた事がありますが、カメラとレンズの組み合わせの相性もあるようですが、明確な回答はありませんでした(分析したいので詳細な撮影データが欲しいといわれましたが、その後何も回答なし)。望遠鏡と言えどもゴーストはつきまとう課題ですね。


盛大に出たゴーストで、とても作品にならない

 


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